『ミスター・ノーバディ』Q&A
TOKYO FILMeX ( 2010年11月21日 16:00)
11月21日、有楽町朝日ホールにて、特別招待作品としてジャコ・ヴァン・ドルマル監督の『ミスター・ノーバディ』が上映された。『トト・ザ・ヒーロー』、『八日目』に続く待望の3作目。上映終了後、Q&Aに登場したヴァン・ドルマル監督は日本語で「どうもありがとう」と挨拶した。
時間が交錯するこの作品、最初の質問は「撮影するとき、それぞれの時間軸ごとに撮ったのか、それともバラバラに?」。監督は「通常、映画は時系列で撮ることは稀です。この作品も普通に、どちらかというと無秩序に、同じようなセットや美術のシーンがあれば、そこを先に撮ってしまう形をとりました」と答えた。
林 加奈子東京フィルメックス・ディレクターが「この作品を作るのに長い時間かかったそうですが」と水を向けると「濃密に働いていたのは10年くらい。脚本に6年、撮影には6ヵ月、その後、編集に1年半くらいかかりました」と監督。時間がかかったのは、これまでの自作と違うものをつくりたいという野心があったからで、映画を撮ること、人生を生きること、監督自身の愛するそのふたつのことを合体させた映画を目指したそうだ。「映画は、普通はストーリーがあってエンディングに向かって収束していく漏斗(ろうと)型。一方、人生は脈絡なく枝のように広がっていくもの。本来すぼまっていく漏斗型の映画の中に、より現実の人生に近い、広がりのあるお話を語りたかった」。
次に「時間が交錯して、最初は混乱するかと思ったけれど意外にすっきり見ることができた。主人公を演じた3人の俳優さんがルックスの面で一貫性があったことも一因かと思うが、キャスティングはどのように?」との質問が客席から投げかけられた。監督からは、「違う選択をしたことで、違う方向に人生が分かれていくという"違い"に興味があったので、3人の俳優が似ているかはあまり気にしなかった。演技のクオリティや、キャラクターと俳優の間に近しいものがあるかという観点で選びました」との答え。また、質問の中の"混乱"という言葉を糸口に、次のように付け加えた。「この映画は直線的に流れる映画ではありません。"現実"を見せるリュミエール兄弟と、"幻想"を見せるメリエスの中間を目指している。現実そのものではなく、人間が物事をどう認識するかを見せたい。今回は人間がどう考えるか、夢や記憶のメカニズムを描きたかったのです」。
「わたしは日本の皆さんがこういうタイプの映画をすんなりと受け入れてくれるタイプの観客なのではないかと期待しています。今、何かボトルを海に投げ入れた気分です。そのボトルが皆さんのお手元に届くことを信じています」という監督のメッセージで、Q&Aは締めくくられた。
なお本作は、2011年春、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国で公開予定。
(取材・文 加々良美保、写真:関戸あゆみ)
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