『ラブホテル』トーク(ゲスト:寺田農さん)
TOKYO FILMeX ( 2011年11月22日 18:00)
第12回東京フィルメックスの特集上映として東銀座・東劇で、「相米慎二のすべて〜1980-2001 全作品上映〜」と題し、没後10年を迎えた相米慎二監督の全13作品上映が行なわれている。11月22日には1985年の『ラブホテル』を上映。終了後には主演俳優の寺田農さんによるトークショーが開催された。聞き手は、助監督として数々の相米作品を支えてきた榎戸耕史監督。相米作品の常連だった寺田さんが披露した相米監督の人柄を知るエピソードの数々は、客席を大いに沸かせた。
まずは上映作品『ラブホテル』出演の経緯から。当時すでに数本の相米監督作品に出演していた寺田さん。演じる役を自分で選ぶことができたようで、「仕事をしていた東宝の撮影所に榎戸さんが来て、"今回、どれやりますか?"って言われたので、台本をざっと読んで"村木(主人公)やる"って相米に言ってくれよ、と」。監督は当初、村木役に別の俳優を想定していたらしいのだが、寺田さんの一言で主演が決定。"相米"と呼び捨てにする監督との距離感が伝わるエピソードを明かしてくれた。
やがて撮影に入ることとなるが、"にっかつロマンポルノ"ブランドで製作された低予算作品のため、撮影期間はわずか10日。そのうち9日間は徹夜作業だったという。そこで、クランクイン前に2カ月ほどリハーサルを行うことになったというが...「別に台本の読み合わせをするわけじゃなくて、"名美(ヒロイン)ってどこの出身なんだよ?"、"村木の出版社って、どんな本出してんだよ?"とか話し合いを始めるんだけど、30分もすると"おい、酒買ってこいよ"ってことになって...。大体毎日、1時半から夜中まで酒飲んでたよね」
また、出演者にも知り合いや身内が顔を揃え、『魚影の群れ』の佐藤浩市さん、『翔んだカップル』の尾美としのりさんに加え、助監督だった榎戸監督までも端役で出演。逆に、寺田さんもしばしば他の作品に駆り出されることがあったという。とはいえ、気心の知れた間柄ゆえか、扱いがぞんざいだったようで、そのあたりのエピソードをいくつか語り、「『魚影の群れ』では、何にも映ってません。大変苦労して津軽弁を勉強したんですけれど。方言の先生から津軽弁を教えていただいているところに顔を出して、"おい、まだかよ。早く飲みに行こうぜ"と...。こういうのが相米なんですね。で、そんな思いをして一日かけてやったのに、全部カットで何も残ってない(笑)。クレジットだけ先に作っちゃったから、名前だけ載ってて」
そんな扱いが一度や二度ではなかったことから、『雪の断章-情熱-』(85)の頃には、少し考え方を変えたらしい。「最初の頃は、1人で目立つ役を選んでいたんですけれど、そういうのに限っていつもカットされるんですね。だから、『雪の断章』のときは、ここを切ったら話が成立しない、というところを選んで。主役の斉藤由貴さんたちが会話をする屋台のオヤジなんですけれど。それで、僕がどういう風にやりたいかということを、相米に言うんですね。そこで提案したのが、カセットテープで屋台にクラシック音楽を流していて、途中で僕がカセットを入れ替えると音楽が変わるのはどうかと。そうしたら面白がって"やってみろよ"って」
そして最後は、相米監督の遺作となった『風花』出演に関する逸話が。「浅野忠信さんの父親役なんですけれど。留守電にメッセージ残すのと、酒飲んで暴れるシーンが予定されていました。で、ちょうど僕その頃、博多でお芝居やってたんですね。そしたらある朝、スタッフから電話がかかってきて、"監督が今から寺田さんに留守電のメッセージ吹き込んでもらえって言うんですけれど"って。僕、起きたばかりで浴衣だったんですけれど、着替えるのも変なので、ちょっと浴衣を直して、電話して留守電に吹き込んだんです。で、後日、暴れるシーンの撮影を予定していたんだけど、"金使いすぎちゃったので、あのシーン欠番にします"って...。結局、出番は留守電だけ。後日、試写で会ったら"いや、留守電よかったよなぁ"...お前ねえ、いい加減にしろよ、って(笑)」
相米監督の人柄を知る寺田さんならではのトークは、予定時間を過ぎても尽きることなく続いたが、いよいよ時間切れとなり、立ち上がって客席に向けて最後の一言を。「最近、『甦る相米慎二』と『シネアスト 相米慎二』という、相米に関する本が出ましたけれども、これを読むと、相米は最低であり、最高である、そして、いかに相米慎二が多くの人に愛されていたのか、よくわかります。ぜひ、お読みいただければと思います」と相米監督への愛情溢れるメッセージを残して、ステージを後にした。
「相米慎二のすべて〜1980-2001 全作品上映〜」は11月25日(金)まで連日、東劇にて開催中。ぜひ皆さんも足を運んで、相米作品の魅力に触れていただきたい。
(取材・文:井上健一、撮影:三浦彩香)
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