ペマツェテン監督受賞インタビュー
TOKYO FILMeX ( 2011年11月27日 22:00)
11月27日、第12回東京フィルメックスが閉幕し、チベットを舞台に人々の姿を描いた『オールド・ドッグ』が最優秀作品賞に輝いた。受賞会見後、ペマツェテン監督が、受賞の喜びを語ってくれた。
「映画に対して純粋な東京フィルメックスで、賞を頂けたことは特別な意味があります。この映画祭の観客は本当に映画を愛する方が多いと感じます。ですから、これは作品にとってもとても光栄なことだと思います。また、この作品は長年撮りたいと思い続けていたので、この作品を完成させ、日本に来ることができたということ、そのことによって、チベットの人々の現状を、外国の方に知っていただければと思います」
静かな佇まいが強い印象を残す主人公の老人は、地元に住む「本物」の羊飼いだという。脚本を書き上げた後、なかなかイメージに合う役者がおらず悩んでいたが、ロケ地でたまたま放牧していたところをスカウトしたそう。「ちょっと練習してもらうと、とてもいい感じでした。本物なので、チベット犬の扱いについても、羊についてもプロの人。自然に演技ができる、天才的なものを持っていましたね。最初は演技などしたこともないしとんでもない、と断られましたが、なんとか説得しました」
重要な役どころである「オールド・ドッグ」も、ロケ地でスカウトした。チベットの人々にとって、犬は家族の一員。ほとんどの家庭でチベット犬を飼っているが、脚本のイメージに合う犬を探すのには苦労したそう。
「老犬、というのが第一の条件。若い犬と老犬では毛並みもかなり違いますから。性格のおとなしい老犬を飼っている家をきいてまわって見つけました。主役の老人ともしばらく一緒に過ごしてもらって、慣れさせました」
この作品の舞台は中国の青海省東南部である「アムド地区」。また、ロケ地は、黄河流域にある同省の「海南チベット族自治州同徳県河北郷」周辺とのこと。
「構想は7〜8年、具体的な企画が出来てから撮り終えるまでは2年ほどです。チベット族の現状をきちんと撮った作品を、と思っていました。チベット犬のブローカーによる売買が盛んであると知ってから、このストーリーの結末をまず思いつきました。09年に、やや衝動的に青海省の、今回ロケした場所に行き、町や村でロケハンしているうちに、その土地の雰囲気が自分の物語をまとめてくれたのです」
チベット族の現状を訴える作品を、という強い想いを抱いてこの作品の製作にのぞんだ監督だが、描かれた人々の物語は普遍的な人間の姿を象徴するものとなった。
「中国では現在、経済の激変にみまわれています。伝統文化の消滅、生活習慣や意識の変化は、漢民族を含め中国のあらゆる人が経験している。中国国内で上映会をした時、多くの漢民族の友人たちが、これはチベット族だけでなく、誰もが直面している生き難さ―経済の激流と伝統文化の狭間でどうやって生きていくのかという問題を表現したものだ、と言ってくれました」
小説家としてキャリアを積んできたペマツェテン監督は、2002年から北京電影学院で専門的に映画を学びはじめ、古今東西の作品を系列的に観る機会を得た。その中で尊敬する監督を訊ねると、黒澤明、溝口健二、イングマール・ベルイマン、アッバス・キアロスタミの名前を挙げてくれた。
長編3作目にしてすでに数々の賞を受賞してきたペマツェテン監督の今後の活躍に大いに期待したい。
(取材・文:花房佳代、撮影:永島聡子)
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