『オールド・ドッグ』ペマツェテン監督Q&A
TOKYO FILMeX ( 2011年11月21日 21:30)
11月21日夕、有楽町朝日ホールにて、コンペティション作品『オールド・ドッグ』(中国)の上映が行われた。上映後、ペマツェテン監督とプロデューサーのサンジェジャンツォさんが登壇。今回が二度目の来日というペマツェテン監督は、サンジェジャンツォさんとともに、客席を埋めた日本の観客に感謝を述べた。
大きな拍手に迎えられたチベット出身のペマツェテン監督は、「『オールド・ドッグ』は今日が日本初上映となります。私の作品が日本で上映されるのは前作『静かなるマニ石』(05)に続いて二度目です」と挨拶した。
司会の林 加奈子東京フィルメックス・ディレクターが、「タイトル通りに犬についての物語と思いきや、人間の姿が深く描かれた作品」と評する通り、「犬を通じて、チベット族の現状を表現したかった」という監督。
チベットの人々が古くから牧羊犬として飼育してきたチベッタン・マスチフは、中国都市部の富裕層に人気で、高値で取引されているという。純血種のチベッタン・マスチフを飼う老いた羊飼いは、なんとかして犬を手に入れようとする犬ブローカーや犬泥棒に悩まされる。
脚本は小説家でもある監督のオリジナル。「まず結末を思いつき、それからロケハンを始めました。街や牧草地といったロケ場所に実際に犬を立たせて、物語を組み立てていきました」。撮影は監督の地元で、40日間かけて行われたという。
会場との質疑応答に移ると、重要な場面で用いられる長回しについて質問が集中した。
最初の質問は、ラストシーン、ある決断をした老人が草原を歩いていく場面について。監督は「それまでのシーンでは圧縮されたような構図で撮られていますが、あの場面では、それまであまり映さなかった広い空を画面に入れています。老人にとっても犬にとっても、抑圧された状況から解放されたことを表しているのです」。
老人はチベットに押し寄せる近代化の波に抗うかのように、「犬は民族の誇り」と手放すことを頑なに拒む。監督は「何度か登場する犬ブローカーの存在が、ラストへと物語を押し進めてゆくある圧力を暗示しています」と解説した。
またラスト近く、広い牧草地の羊の群れを捉えたロングショットでは、羊たちの動きが強い印象を残す。どのような意図をもって演出したのか、という質問が出されると、会場のそこここでうなずく観客の姿が見られた。
「演出ではなく、偶然に羊たちがあのように動いたのです。奇跡的に撮れたものですが、一頭の羊の行動が犬の運命を暗示するかのように思われたので、あのショットを使用しました」と監督。
また、老人の前に現れるハゲワシの姿について問われると、監督は「あのハゲワシも偶然撮れたものですが、やはり結末を象徴しているように思えますね」と答えた。
『オールド・ドッグ』は25日(金)午前、有楽町朝日ホールで再び上映される。
(取材・文:花房佳代、撮影:村田まゆ)
|