『フライング・フィッシュ』サンジーワ・プシュパクマーラ監督Q&A
TOKYO FILMeX ( 2011年11月21日 18:30)
11月21日(月)、有楽町朝日ホールにてコンペティション作品『フライング・フィッシュ』が上映された。上映後にサンジーワ・プシュパクマーラ監督が登壇し、Q&Aが行われた。スリランカ内戦の時代を背景に、人々の苦しみを描いたプシュパクマーラ監督のデビュー作。監督は「皆さん、こんなにも暗い気持ちになる映画を観ていただいてありがとうございました」と挨拶した。
当作品で描かれた内戦について、司会の市山尚三東京フィルメックスプログラム・ディレクターが「人口の7割強を占めるシンハラ人に対し、2割弱の少数派タミル人との争いが2009年の終結まで続いた」と解説。市山Pディレクターが監督と内戦との関わりについて質問すると、監督は「1974年にはスリランカの北部・東部を中心に内戦が始まり、1977年にスリランカ東部で生まれた私の人生は、まさにこの戦争と共にあり、その影響に苦しみ続けてきた」と監督。「物語は、実際に生まれ育った村で聞いた話をもとにしています。これは"私についての映画"であり、撮影も自宅周辺で行いました」と背景を語った。
続いて会場からの質問に移った。最初に画面の独特の質感や撮影方法について訊かれると、「全く信じられないかもしれませんが...」と前置きし、全編デジタル撮影でカメラはSony製 EX1を使用した、と説明した。資金的制約から35mmでの撮影は当初から考えておらず、製作資金は総額2万5000ドル(約200万円)。撮影終了後に、ロッテルダム国際映画祭のHubert Bals Fundから制作完成資金の援助を受けたという。また撮影のビシュワジット・カルナラトナさんについて「人間・世界の見方を私と共有していると感じ、組むことにしました」と監督。
次に、登場人物の演技に感動したという観客の質問に、監督は「メインキャラクターの母親役はスリランカで活躍する女優で、この人以外いない、と思った方です。しかしそれ以外はほぼ素人で、私が自分で街中や舞台で見てスカウトしました。私は人生そのものの映画を撮りたかったので、プロではそのリアルさは出せないと思いました」とキャスティングの意図を語った。
また、河瀬直美監督との共通点を感じたという観客からの質問には「もちろん、2007年に第60回カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞した『殯の森』は観ています」。ちなみに、一番敬愛する監督は小津安二郎だそう。
次に作中で「壁を背景に繰り広げられるシーンが印象的だった」という観客からの感想に監督は、自身の子ども時代の体験が盛り込まれていると話し「8歳の時、LTTE(タミル・イーラム解放のトラ)に叔父が誘拐され、その妻である叔母と兵士が廃墟でセックスしているのを目撃したのです。当時は驚き以外の何物でもなく、何を意味しているのか理解できなかった。自宅の前に兵士のキャンプがあったのも影響しています」と戦争がいかに身近にあったかを印象づけるエピソードを明かした。
続いて、ある男が唾を吐くシーンについては、「世界・社会が、私の周囲の人々や民族に何が起きているのか、見て見ぬふりをしてきた」ことへの怒りを示す暗示である、と説明。それと同時に、「男が自分より弱い者に対して唾を吐く行為は"暴力"でしかない。でも一旦暴力が体に刷り込まれてしまうと、それに気づかず人は弱者に対して暴力をふるってしまう」ことを示しているという。
また、印象的なラストシーンについて質問がされると「確かに強い意図はありますが、ここではお答えできない。私が解説するよりも、今晩皆さんがお布団の中で寝る前にそれぞれに考えて下さる方が、ずっといいですね」と観客に投げかける一面も。
ここで時間切れとなり、Q&Aは終了となったが、最後にプシュパクマーラ監督から、「市山さん、日本へこの作品を持ってきてくれてありがとう。かつてアッバス・ キアロスタミ監督が、1977年のロッテルダムで最高の観客に出逢ったと語ったが、私はこの東京で最高の観客を見つけることが出来ました」と観客への感謝を表した。
質問者ひとりひとりをしっかりと見つめて話し、飾らない人柄でQ&Aに応じてくれたプシュパクマーラ監督に、会場からは大きな拍手が送られた。
『フライング・フィッシュ』はTOHOシネマズ 日劇にて、11月23日(水)にレイトショー上映される。
(取材・文:阿部由美子、撮影:村田まゆ)
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