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『ミスター・ツリー』ハン・ジェ監督Q&A


TOKYO FILMeX (2011年11月23日 15:00)

1123tree_01.jpg第12回東京フィルメックスのコンペティション作品『ミスター・ツリー』が11月23日(祝・水)、有楽町朝日ホールにて上映され、ハン・ジェ監督が登壇してQ&Aを行った。冒頭「日本に来るたび、学ぶことがたくさんあります」と述べ、来日の喜びを示してくれたハン監督。2006年に長編1作目『ワイルドサイドを歩け』を出品して以来5年ぶりとなるフィルメックスで、客席からの質問に答えて新作映画に込めた思いなどを語った。


雪に覆われた鉱山の村に住む青年シュウが、かつて父と兄の間に起こった不幸な記憶に苛まれるという設定の『ミスター・ツリー』。その背景には兄が犯した"罪"があるということで、最初に市山尚三・東京フィルメックスプログラムディレクターが、外国人には理解しがたいその時代背景を尋ねた。


1123tree_02.jpgまず、「主人公の名前シュウ(漢字で『樹』)は比喩です。一本の木の根っこが、大きな風を受けてグラグラと揺らぎます。その風はどういうものかというと、家庭の悲劇であったり、社会の問題だったりする。木、そのものにも傷跡を残します」と切り出したハン監督。「シュウが子どもだった1980年代。中国は西洋の影響を受けて、社会が大きく変わっていった時代でした。とても開放的な時代でしたが、影の部分もありました。西洋文化に憧れながら、"罪"を犯してしまうこともあったのです。その最たるものは恋愛で、恋愛にうつつを抜かす若者は、(社会秩序を乱す)チンピラと決めつけられました。シュウの父は、青春を謳歌していた兄に不満を抱き、悲劇へとつながっていったのです」と説明し、映画では明確に描かれなかった事の真相を示唆した。


これを受けて、客席からは「シュウとは異なり、彼の弟には過去のトラウマらしきものが見られない。この違いは?」との質問があがった。ハン監督は「シュウの弟は、90年代の市場経済の真っ只中に生まれ育ちました。街で働き、シュウよりもずっと良い生活をしています。このように、三兄弟の間でも、年代によって大きな違いがあるわけです」と回答。中国の特殊な事情を踏まえ、本作への理解を深める時代背景のヒントを提供してくれた。


1123tree_03.jpg複雑な心を抱えたシュウを演じたのは、『イノセントワールド/天下無賊』等に出演する中国の人気俳優ワン・バオチャンだ。観客からワンさんへの賞賛とともに、キャラクター造形について問われたハン監督は、「彼には天性の才能があります」と絶賛。「彼はこれまでシンプルで表面的なキャラクターを演じることが多かったのですが、今回は蓄積してきた経験を一度すべて捨ててもらいました。いまの農村に生きる若者たちを理解するため、農村にもリサーチに出かけました。そうして役に入り込む準備をしていったのだと思います。その結果、何も目標がなく、やるせない若者の雰囲気や姿勢を自然に作り込んでいけたのでしょう」と語り、満足いくコラボレーションで撮影が進んだことをうかがわせた。
最後に、劇中に出てくる「子どもを守れ」という言葉が、魯迅の『狂人日記』のセリフ(小説では「子どもを救え」)を意識したものかどうかと問われたハン監督。「そんなに意識したわけではありませんが、魯迅の作品の中では『阿Q正伝』の阿Qにシュウは重なるかもしれません。魯迅には、現実主義というリアリズムの表現の仕方は通じるものがあると思います」と述べ、質疑応答を締めくくった。


友人から「君の映画は日本映画の影響を受けている」と指摘されるといい、今村昌平監督『うなぎ』や是枝裕和監督『誰も知らない』が好きだという。本作の結末部分には監督自身も「日本映画の影響を感じる」とのことなので、そのあたりにも注目して観てみるのも面白い。『ミスター・ツリー』は11月25日(金)、21時15分よりTOHOシネマズ 日劇にて再上映される。


(取材・文:新田理恵、撮影:村田まゆ)

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