「タレント・キャンパス・トーキョー 2011」レポート
TOKYO FILMeX ( 2012年1月27日 20:24)
2010年の東京フィルメックス期間中におこなわれた人材育成プロジェクト「Next Masters Tokyo 2010」。東京都、東京文化発信プロジェクト室(公益財団法人東京都歴史文化財団)および東京フィルメックスの主催により始まったこのプロジェクトは、2011年、ベルリン国際映画祭期間中に毎年開催されているベルリン・タレント・キャンパスと正式に提携し、「タレント・キャンパス・トーキョー 2011」として新たな出発を果たした。
テーマは「Beyond Borders(越境)」。映画監督やプロデューサーを目指す新しい人材が、急速に変容するアジアでの映画作りのノウハウを学び、国際的なネットワークを築く機会を与え、東京を世界的な文化創造の発信拠点とすることを目的としている。タレント・キャンパス・トーキョー 2011は11月21日から26日までの第12回東京フィルメックス開催中の6日間で行われた。参加者は東アジアと東南アジアから選ばれた将来を期待される15人の監督、プロデューサーたち。参加者 (タレント) は期間中、すでに映画界で活躍するエキスパートの講義を受け、自らも映画の企画を発表、資金集めの方法から映画づくりを学ぶ。
メインエキスパートには、映画監督のジャ・ジャンクー、プロデューサーのパク・キヨン、ワールドセールスを手がけるオリンピア・ポント・チャフェル、ベルリン・タレント・キャンパスのプロジェクトマネージャーであるクリスティーネ・トロストルムを迎え、また第12回東京フィルメックスで審査委員長を努めたアミール・ナデリ、映画監督の是枝裕和、藤原敏史、スーザン・レイがそれぞれ講義を行った。
イントロダクションでは、それぞれが制作した作品からの短い抜粋を上映。自らの土地と風土を静かにセピア色で描いた作品、繊細な会話劇からセクシュアリティーを題材として浮かび上がらせた作品、地域、社会特有の問題を自らの経験をもとにシュールに描きこんだ作品など、 タレントたちは、初めて顔を合わせるお互いの作品に興味津々。
プログラムは全て英語で行われたが、タレントの出身国はフィリピン、マレーシア、インドネシア、シンガポール、タイなどの東南アジア、日本、韓国、中国、香港などの東アジアで、ほとんどが英語を母国語としない国々。しかし、すでに海外のフィルムスクールへ留学し、学んだタレントも数多い。英語が母国語でないエキスパートも多く、アジアにおける映画づくりの状況を反映している。
期間中にはタレントたちが自らの映画の企画を実現させるための実践的な方法を学ぶプレゼンテーション講座のプログラムがあった。その後タレントたちは様々なレクチャーや、エキスパートのブラッシュアップを経て本番の「オープン・プレゼンテーション」に望むことになった。
「映画祭期間中はいつだれに会うかわからないのだから、いつも準備していなくてはいけない。例えば、朝食を食べにいく途中、ホテルのエレベーターで誰かに会うかもしれない。そんなときには、すぐにその場でピッチ(映画の企画をとても短い時間でプレゼンすること)が出来なくてはいけない」。タレントたちはそのような話を聞いて、実際に東京フィルメックスが開催されている中、映画界での実践的な映画づくりの空気を学んでゆく。オーディエンスは誰なのか。どの、いくつの映画祭にフィルムを送るのか。どのようなメディアで上映するのか。それはTVやインターネットでみせるほうがよいものなのか。どのような配給経路を想定するのか。セールスエージェントとはどの段階で話すべきなのか。そのような実践的な問いにエキスパートは答えていく。
期間中にはクリスティーネ・トロストルムによるベルリン・タレント・キャンパスを紹介するプログラムも行われた。なお、ベルリンとの提携のもとに実施されるタレント・キャンパス・インターナショナルは、今回の東京の他に世界4都市で開催されている。ベルリンでは、脚本家を対象としたスクリプト・ステーション、ドキュメンタリー作家を対象としたドック・ステーション、ポストプロダクションを対象としたキャンパス・スタジオ、映画音楽作曲家を対象とするスコア・コンペティション、映画批評家のためのタレント・プレスなど様々な実践的なトレーニング・プログラムが組まれており、タレントたちにはアジアからより広い舞台への道が示された。
そして、本番のオープン・プレゼンテーションの時を迎えた。洗練されたプレゼンテーションの数々。プレゼンテーションでは、タレントたちは実際にどのくらいの資金が必要なのかということにも言及しなければならない。 日本と米国の両国で育った自身の経験をもとに、言葉とアイデンティティーの問題を取り上げた作品、現代のインターネットを介した人々の奇妙なつながりを取り上げた作品など、国境を軽々と越えていく作品が数多い。タレントたちは、5分という限られた時間の中で、プロット、キャラクター、資金などの要素を巧みに構成し説明していく。
最終日の表彰式。最優秀企画賞には自身の育った地域の絹織物工場が衰退していく状況を背景として、共に育った親友を追ったドキュメンタリー、シャン・ゾーロン監督(中国)の『SONG OF THE MULBERRIES』が選ばれ、またアフィック・ディーン監督(マレーシア)の宗教的タブーをコメディーという受容されやすいジャンルを用いて描こうとする『The Boy in White』にスペシャル・メンションが贈られた。
(取材・文:慶野優太郎)
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