『独り者の山』ユー・グァンイー監督Q&A
TOKYO FILMeX ( 2011年11月24日 18:00)
11月24日(木)、有楽町朝日ホールにてコンペティション作品『独り者の山』が上映され、上映後にユー・グァンイー監督とのQ&Aが行われた。本作は、ユー監督のドキュメンタリー「故郷3部作」の3作目。東京フィルメックスでの上映は『最後の木こりたち』(第8回)『サバイバル・ソング』(第9回、両作ともに審査員特別賞を受賞)に続いて3回目となるユー監督は、客席に向けて感謝の言葉を述べた。
まず、司会の市山尚三東京フィルメックスプログラム・ディレクターが、主人公サン・リャンツーと監督との出会いについて尋ねた。ユー監督とリャンツーは子供の頃の遊び仲間だったそうで、26歳で村を出たユー監督は、43歳の時に故郷へ戻り映画を撮り始め、以来7年間故郷の人々を記録している。12人兄弟で家が貧しかったリャンツーは、久々に再会した時も貧しい境遇に置かれていたそうだ。
続いて、このドキュメンタリーの主人公にリャンツーを選んだきっかけについて訊かれると、ユー監督は自身も村を出る前に直面した結婚の問題に触れた。「村には女性が少なく、独身男が多い。現在、お金を出して朝鮮族の女性を娶る独身男が多い中、リャンツーはある女性に一途に愛を抱き続けています」と、リャンツーについて説明。
市山Pディレクターが、村落における独身男の問題は中国全体の問題なのかと尋ねると、ユー監督は「大都会の独身男は、自ら独身を選択している独身貴族。一方、貧しい村落では、男たちは独身男にならざるを得ない状況です。全国的に貧しい村落におけるひとつの現象と考えられます」と答えた。
質疑応答に移ると、まず客席にいたベルリン国際映画祭フォーラム部門創設者ウルリッヒ・グレゴールさんが挙手し、撮影について村の人々の理解は得られたのかどうか尋ねた。これに対して、「私自身が地元の人間なので、基本的に村人はカメラを向けても嫌がらずに受け入れてくれました。また以前は受け入れられていなかった同性愛についても、今は受け入れられているようです」とユー監督。
さらにグレゴールさんから村の生活水準について訊かれると、監督は「現在、中国社会で富める者と貧しい者との差は著しく開いています。村落でも貧富の差が激しいのは同じです」と語った。ただ、携帯電話は貧しい農民や街の物乞いでも持っているほど、中国全土で普及しているそうだ。
次に、観客から製作費と中国当局の検閲に関する質問が寄せられた。まず製作費について、本作は上海テレビ局のドキュメンタリーチャンネルから資金提供があり、3年の年月を費やして撮影したそうだ。また、検閲について監督は、「自分の作品を国際映画祭に作品し、皆さんに見ていただくことしか考えていません。中国では私がこうした作品を撮っていることを誰も知らないので、私は孤独を感じています。電影局の審査には関心がありません」と答えた。
続いて、今回の東京フィルメックス・コンペティション審査員スーザン・レイさんから、主人公がかつて村人にからかわれていた理由について訊かれると、監督は「伝統的に、社会で尊敬される人物というのは道徳性、人品、家柄などによって判断されたものですが、最近は経済的な豊かさによって社会的なステータスが判断されるようになったためです」と説明した。
さらに、観客から、主人公リャンツーが思いを寄せるメイツーについても質問が寄せられた。監督は、リャンツーが無償でメイツーの仕事を手伝っていること、メイツーが同性愛者であることをカミングアウトした後もリャンツーのメイツーへの思いは変わらないことなど、劇中では明確にされなかった2人の関係を説明した。また、メイツーの山荘で客が歌っている曲は、愛を求める孤独な心を歌っており中国で大ヒットした曲。撮影時にたまたま客が歌っていた曲だが、リャンツーの心情を表していて思わず涙があふれたという監督。
最後に、監督は「2008年からこの村で生活し、村人は身内同然です。これからも、故郷の人々の生活を記録し続けたいと思います」と述べて質疑応答を締めくくり、会場から温かい拍手が送られた。
(取材・文:海野由子、撮影:清水優里菜、村田まゆ)
|