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デイリーニュース

審査員会見


TOKYO FILMeX (2011年11月27日 15:00)

1127kaiken_01.jpg11月27日、有楽町朝日ホール11階スクエアにて、第12回東京フィルメックスの審査員会見が開かれ、観客賞をのぞく各賞の発表が行われた。


最初に、司会の市山尚三プログラム・ディレクターから、26日にすべてのプログラムを終えたタレント・キャンパス・トーキョーの各賞が発表された。最優秀企画賞はシャン・ゾーロン監督(中国)の「Song of Mulberries」、スペシャル・メンションはアフィク・ディーン監督(マレーシア)の「The Boy in White」に贈られる。


続いて、学生審査員の古地良子さん、山口直哉さん、梶睦さんが紹介され、今回初めての試みとなる学生審査員賞が発表された。
選ばれたのは、奥田庸介監督の『東京プレイボーイクラブ』(日本)。古地さんが「東京フィルメックスのコンセプトに「映画の未来へ」とあります。芯をもってやりきる強さ、製作者の情熱が観客への刺激になり、最も映画を豊かにする。それこそが映画の「未来」に繋がるのではと考えました。数ある作品の中で、特に奥田監督の作品は、「映画を撮りたい!」という初期衝動が、無骨にむき出しているように感じました。それが本当に、刺激的でシビれました!」と受賞理由を読み上げた。
奥田監督からは、「新人として、若い方々に共感していただいて光栄です。精進します」とのメッセージが寄せられた。


1127kaiken_02.jpg次に、第12回東京フィルメックス・コンペティションの5名の審査員、アミール・ナデリ監督、フィリップ・アズーリさん、チョン・スワンさん、篠崎誠監督、スーザン・レイ監督が紹介され、審査員を代表し、ナデリ審査委員長が挨拶した。
「東京フィルメックスは私にとって非常に重要な映画祭です。ここで上映される作品が非常に素晴らしいものだからです。昨夜、私は眠れずに、私の素晴らしいパートナーである審査員の皆さんと行った審査について考えていました。期間中、たくさんの映画を経験しました。躊躇なく言えることは、すべての映画が非常に素晴らしいものであるということ。しかし、ご承知のように映画祭には審査があり、全ての映画に賞を与えることはできません。個人的に言わせていただければ、私は正直10本すべてに賞を与えたい。映画の作り手として、作品を作るという行為にどれほどの時間とエネルギーとが費やされることになるのかを知っています。私たち審査員は非常に率直に意見交換しました。時に互いに感情的に傷つくこともあったかもしれません。非常な困難な選択となりました。東京フィルメックスは、つねに映画作家の未来を第一に考えている映画祭だと思います。私も、そのことに強く共感しています。引き続き、東京フィルメックスから、多くの素晴らしい映画作家が飛び立っていくことを確信しています」


次に、篠崎誠監督から、審査員特別賞 コダック VISION アワードがパク・ジョンボム監督の『ムサン日記〜白い犬〜』に贈られると発表され、受賞理由が読み上げられた。「カメラの前と後ろに立つという困難に身を置きながら、監督は情熱をもってこの作品を完成させました。その情熱が全キャスト、全スタッフに伝染し、真のコラボレーションを達成させました。主人公を通して私たちは現代の韓国と北朝鮮の複雑な状況そのものを経験するのです」


1127kaiken_03.jpgここで、大きな拍手に迎えられ、パク監督が登場した。受賞を予想していなかった、という監督は「ありがとうございます。今回の受賞をこれからもがんばれ、という励ましの言葉と受け止めて努力していきたいと思います」と、感謝の言葉を述べた。


続いて、グランプリが『オールド・ドッグ』に贈られることがアズーリさんから発表され、「これは何もない場所にある静寂と雰囲気を捉え、登場人物の心の中に入り込んだ作品です。非常に真摯な手段で文学から映画への移行が行われています。私たちに、この地域そしてその人々の生活を経験させてくれるものです」と受賞理由が読み上げられた。


1127kaiken_04.jpg大きな拍手で迎えられると、ペマツェテン監督はナデリ監督はじめ審査員全員と握手を交わした。促されてマイクの前に立った監督は、「この栄誉をいただいて本当に感謝申し上げます。私にとって映画を撮ることは自己表現の非常に重要な手段で、それに対してこのような賞をいただいたことは非常に光栄なことです。今回の上映でたくさんの日本の観客の方に観ていただくことができました。この映画を通して、チベット族の住む地域やチベットの人々について理解を深めていただけると嬉しく思います」と受賞の喜びを語った。
監督が挨拶を終えるとすかさずナデリ審査委員長がマイクの前に顔を出し、「本当に素晴らしい作品!」と一言、笑いを誘った。


次に、スーザン・レイ監督からスペシャルメンションが発表された。
「社会の隅に追いやられた主人公の人物像を繊細に作り上げた『ミスター・ツリー』のワン・バオチャンの演技は特筆すべきものでした。また、審査員はドキュメンタリー作品『無人地帯』に映し出された福島に住む人々への想いをスペシャルメンションとして伝えたいと思います」


最後に、ナデリ審査委員長から総評が述べられた。「私が最も言いたいのは、賞を受けなかった監督たちに、失望しないでほしいということ。この映画祭は非常にミニマルで厳しい選択の中で10本が選ばれていますから、コンペティション部門に選ばれただけで栄誉なことです。先程発表された学生審査員賞も、映画の未来に開かれたものだと思います。映画作家は、前に進み続けることが大切です。賞を受けなかった監督たちも、次の映画に突き進んでいただきたい」


続いて会場との質疑応答に移り、まず審査委員長のナデリ監督に、審査会でどのような議論があったか訊ねる声が上がった。
「私はこれまでいろいろな映画祭で審査員を経験してきましたが、今回特筆すべきことは、審査員の間に「どのようなものを評価したいか」という共通の認識があったように思います。私たちはすべての作品について丁寧に語り合いました。語り続けることで、映画がそれに応えてくれるように思われました。私個人にとっては国のバランスとか、政治的な困難といったことはそれほど重要ではありません。大切なのは、映画として成立しているのか、ということです」とナデリ監督は答え、受賞した2本について、「『オールド・ドッグ』は、映画的言語、編集、沈黙、イメージにおいて、非常に優れた試みをしています。また『ムサン日記』を通して、私はひとつの国の現実を見据えることが出来たように思います。どのような思いで人々が生きているのか、映画言語を通して受け取ることができました」と改めて賞賛を送った。


次に、ペマツェテン監督に「チベットの人々が『オールド・ドッグ』を観る機会はあるのでしょうか」という質問が寄せられた。
監督はデビュー作『静かなるマニ石』を作ったとき、映写チームを作って村々で巡回上映を行ったというが、チベットの人々がチベット語の映画を観る機会はほとんどない、と答えた。「ラサのような大きな都市には映画館がありますが、そこで上映されているのは中国の商業映画やハリウッド作品です」と説明した。


続いて、『ムサン日記』で主人公を自ら演じたパク監督は、劇中の演技と演出について問われると、「この映画を作ろうと思ったのは、主人公のモデルとなった友人のチョン・スンチョルさんが亡くなった後のことです。彼がどのように苦しみ、どのように死んでいったかをそばで見てきましたから、演じることで、彼の人生を追体験しようと思ったのです。詳細な設定や台本を用意するのではなく、その場で何を見せようかと考えながら撮っていきました。彼自身の姿もさることながら、彼の周囲の状況を描くことも非常に重要でした」と語った。
主人公の後ろ姿のショットが多用されていることについて、監督は「後ろ姿を通して彼の内面を表現したかったからです」と説明し、また「苦しんでいる親友の顔を、果たして正面から見られるだろうか?と考えたのです」と、主人公に対する深い思い入れを滲ませた。監督は役作りのために10kg太ったそうで、「「ムサン」とは、「木々の生い茂った山」という意味があり、広い背中を見せることで山のイメージを表現しようと思いました」と語った。


最後に、受賞した両監督に、東京フィルメックスの印象について訊ねる声が上がった。
ペマツェテン監督は「一番に感じたのは、この映画祭が映画に対して純粋だということ。監督と観客が一緒に作品を観て、そして語り合う雰囲気がすばらしい。Q&Aでは、皆さんが純粋で、また専門的な意見が多く、とても感動しました」と答え、観客との交流が印象に残った様子。パク監督は初めて訪れたという東京の印象について「落ち着いた雰囲気で、秩序があると感じました。観客の皆さんは映画について語ることが日常になっていて、素直な反応を寄せてくださるのは非常に驚きでした」と語った。


今回、特集上映「限定!川島パラダイス♪」で上映された川島雄三監督の『洲崎パラダイス 赤信号』『昨日と明日の間』の2作品が、来年2月のベルリン国際映画祭フォーラム部門にて上映されることが決まった、と発表され、会見は終了した。


(取材・文:花房佳代、撮影:永島聡子)

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