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『アリラン』キム・ギドク監督Q&A


TOKYO FILMeX (2011年11月19日 22:00)

1119arirang_03.jpg11月19日、TOHOシネマズ 有楽座にて、開会式に引き続きオープニング作品としてキム・ギドク監督の『アリラン』の上映が行われた。前作『悲夢』(2009)以来映画界から姿を消していた韓国の鬼才キム監督が、3年の沈黙を破って発表されたこの作品。今年のカンヌ国際映画祭で「ある視点」部門最優秀作品賞を受賞した話題作とあって、会場は超満員となった。作品中と同じ髪型の監督が姿を現すと、待ちわびた観客から大きな拍手が沸き起こった。


キム監督は「『アリラン』がオープニング作品として上映されたことに、とても感激しています」と挨拶し、「自分の作品を観たばかりの方の前にいるのはとても恥ずかしい」とはにかんだ。


映画は、山間に佇む粗末な一軒家に独居する監督の日常生活を映し出す。撮影されたのは実際に監督が住んでいる家で、いつか映画を撮ることができなくなったら農業をして暮らそうと10年前から準備していた家とのこと。


1119arirang_02.jpg観客からの最初の質問は、誰かが家のドアがノックしているという演出の意図について。それに対して監督は「ドアを叩いていたのはみなさん(=観客)だと思っています」と応じた。沈黙期間中にも新作を待つファンからの声を伝え聞いていたといい、「誰か自分を映画の世界に呼び戻して欲しい」という思いを込めたのだという。

「人生の中でスランプに陥ったり、思いもよらぬ事件に遭遇したり、といったことは誰にでもあります。私もある出来事を経験してからの3年間、映画に対する信念も消え、人への信頼も失っていました」とキム監督。「この空間(映画館)自体が、私に勇気をくれるものです。(今は)失ってしまった信念を立て直す時間であり、人への信頼を回復する時間でもあるのです」と語ると、会場からひと際大きな拍手が起こった。


続いて、この作品を撮ることで監督が失ってしまった映画に対する信念を取り戻すことができたのか、という質問に「まだ完全に回復した訳ではありませんが、その間に旅をしたり、多くの人の人生を知ることによって、ふたたび人生や人間の価値について考えるようになりました。そして、人間の秘密というものが存在するのならそれは何なのか、思いをめぐらすようになったのです」と監督は答えた。


1119arirang_01.jpg「生きていく中で、どうしても避けられない不条理や悲惨なことと付き合っていかなければならない。孤独や寂しさも含め、恨(ハン)とどう向き合っていけば良いと思うか」という質問に対して監督は、「かつて私は『春夏秋冬そして春』(2003)という映画を作りましたが、4つの季節は全く違うもの。それと同じように、人生のさまざまな瞬間が人に変化を与えるものだと思います。人間というものは、スポンジのように全てを吸収することはできない。苦しんだり、悲しんだり、幸せを感じながらも絶望を感じたり、というプロセスを経て人生という一つの器が満たされていくのだと思う。だから、自分自身も映画や人を信じることを諦めないようにしたいと思っています」と語り、その思いから『アリラン』が作られたのだと明かした。
監督は「日本はいまとても苦しい状況に置かれている」と震災後の状況について示唆し、「人のエネルギーはとても強いものと信じています。時間はかかるかもしれませんが、悩み、苦しみはいずれ必ず解決されるもの。時間のサイクルが巡り、もう一度幸せの時間が訪れると思います」。そして、自分もまた苦しみを経て、こうして多くの人々を前に笑顔で語ることができる現実にめぐり会えた、と締めくくった。


客席からは質問のほかに、次回作を熱望するコメントが多数寄せられた。『アリラン』の次作となる『Amen』(2011)は、今年のカンヌ映画祭の後、イタリア、フランスをめぐって監督一人で撮った作品。この最新作も「ぜひ皆さんに観てもらいたい」と監督は熱く語った。

最後に、監督は先程ファンから自分が描いた絵をプレゼントされたと話し、その気持ちに応えるために、と映画の中でも自身が歌っている朝鮮民謡の「アリラン」を熱唱した。その歌声に感動し涙を浮かべる観客も。拍手は、舞台袖に監督が消えた後もしばらく鳴り止まなかった。


『アリラン』は、2012年3月より、渋谷シアターイメージフォーラムにて公開予定。


(取材・文:大下由美、撮影:村田まゆ)

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